駒澤大学ギタークラブ資料館

KGC Laboratory

エッセイ

魔法の宝石箱 音楽監督 宮下 正祥

人の心を動かす音楽とは、弾き手の非日常的な積極性でもって、
奏者と聴衆の間に、重大な出来事を起こすことが求められます。

この世の物とは思えない美しさ、聴く人の心を揺さぶる躍動感など、
毎日の生活とはかけ離れた、そんな「非日常の世界」を目指していくわけです。

しかし私が、この部で指導している内容は、そういう音楽の神髄というより、
それは「文字の書き方」に似ています。

何を書くかは本人しだい。日記を書く人、小説を書く人、
時には美しい詩を書く人もいるでしょう。
しかし、人の心を感動させる詩を書ける人は、そうそう登場しないものです。
それは、大多数の部員が大学入学後に初めて楽器を手にしているのですから、
当たり前のことかもしれません。

楽譜に書かれている音符には、意味のないものは一つも存在せず、
奏者というものは、プロ、アマを問わず、
その一つ一つの音が持つ、性質というものを深く考える必要があります。
しかし残念なことに、ギター部員にはそれを表現する技術がありません。
また技術があったとしても心が無い場合もあります。

年間を通じ、私の指導が厳しすぎると嘆く部員もいるかもしれませんが、
それは演奏の出来、不出来を問題にしている・・・というより、

練習する前からあきらめていたり、出来ることをやらないなど、
万事、物事に対する「誠意」が見られないことに原因があります。

それは、何を書くか、文字によって何を表現するか~というより、
文字の書き方すらままならない、
そんな未熟な段階で音楽に関わるのですから、
せめて曲に対して、また聴いて下さるお客様に対して、
持てるだけの最大の誠意を尽くすしかないと、そう思えるからです。

そんな真摯な姿勢がありさえすれば、
この部活は、一つの社会の中の個人のあり方を教えてくれたり、
安易に妥協しないプロフェッショナルな意識を身につけさせてくれたり、
また、生涯にわたる友人をプレゼントしてくれたりと、
そんな「魔法の宝石箱」になることでしょう。

今日の演奏会が、現役生の皆さんにとって、
音楽を通じて自分自身を磨き上げていく出発点~ここから何かが始まる、
そんな想い出深い行事になることを祈ります。
(2006年ウィンターコンサートパンフレット寄稿文より)

Portrait

Essay Top >>>